山でバテない身体を作る レベルアップ登山術

登山者のための「膝」と「アキレス腱」のケア

痛み対策の基本は正しい姿勢で歩くこと

・身体をまっすぐにしてバランス良く歩けていますか? 
・膝から下の脚だけで歩いていませんか? 
・脚全体の筋肉を意識して歩けていますか?
登山者の身体の不調で特に多い「膝痛」「アキレス腱炎」の予防について、自身も登山者・アスリートである整形外科医の平泉裕先生に教えてもらいました。

目次

登山者の痛みが多く出る部位は
「膝」と「アキレス腱」  

回答 平泉裕先生(整形外科医)

ー登山を趣味にしている人たちが、身体でもっとも悩んでいるのが、膝の痛みだと思いますが、平泉先生の病院には登山者も多く診療に見えるのでしょうか。

平泉たくさんいらっしゃいますよ。登山者で、膝の痛みを抱えている方はとても多いです。また、同じくらいの割合でアキレス腱を痛めている方もいらっしゃいます。

ーそうなんですね。膝を痛めてしまう主な原因は何でしょうか。

平泉原因としては登山をする時の姿勢が崩れてしまうこと、そして日頃のトレーニング不足とケア不足が考えられます。身体をまっすぐにして最後まで姿勢をなるべく崩さないようにして歩けているかどうか。トレーニングについては登山に向けた筋力トレーニングを行っているかどうか。ケアについては、例えば大腿四頭筋から膝蓋靱帯までを伸ばすストレッチなどを実践して膝を意識しているかどうか。少しずつでもいいので毎日意識して実践することで、登山当日の膝の具合が違ってきます。

また、ふくらはぎと脚の踵を繋ぐ役目をしているアキレス腱は太い腱ではあるのですが、飛び跳ねた時の衝撃や、急に伸び縮みさせたりすることで断裂することがあります。ふだん運動や身体のケアをしないサラリーマンが、電車に遅れまいと急に走り出して、それだけで断裂したという事例もあり膝同様、日頃のケアは必須です。

ー不整地が多い山の中では、止むを得ずジャンプしたり、足首をよじるような事態も多く起こります。

平泉膝ももちろん重要ですが、アキレス腱を見過ごしてはいけません。例えば、朝起きたら、ベッドの中で全身を伸ばします。その時、足首を柔らかくする意識を持って、右回りに10回、左回りに10回動かしてみましょう。足首を柔らかくしてから立ち上がることもひとつの大事なケアです。私も毎日やっています。

ー見過ごしがちなことだと思います。膝とアキレス腱ですね。平泉先生の考える膝とアキレス腱のストレッチと筋力トレーニングを教えていただいてもよろしいでしょうか。

平泉はい。私も自分のトレーニングで山を登ったり走ったりします。さっそくやってみましょう。

トレーニング1 踵をお尻につくくらい近づけて膝周りを伸ばす

まずお勧めなのが、膝痛予防のために大腿四頭筋を伸ばすストレッチです。こちらも左右どちらかの手で身体を支えながら行うといいでしょう。

たとえば左手を壁について身体を支え、右手で足首を掴み、バランスを崩さないようにしてその脚をお尻に近づけてみましょう。徐々にで良いので、できたら踵の部分がお尻につくように左右10秒ずつを目安にがんばってみましょう。このストレッチのポイントは、身体全体に捻じりが生じないようにして、まっすぐ立ち、正面を向いた姿勢で行うこと。特に、股関節の位置が左右にぶれないように意識すると上手にできます。

足首をひっぱり踵がお尻に近くなるほど、ももの前側についている大腿四頭筋が伸ばされます。大腿四頭筋は下半身の中でもっとも大きな筋肉で、登山をする上でも身体を前に進めてくれる大事な役割を担っています。登山中の疲労で大腿四頭筋が硬くなってくると、大腿四頭筋と繋がっている膝蓋骨の周囲に痛みが出ることがあります。そのため大腿四頭筋をしっかりとストレッチし、また、あとで出てきますが筋力トレーニングで鍛えることで膝を守ることができます。このストレッチも1つ目のストレッチ同様、毎日の朝の習慣にするといいでしょう。

トレーニング2 ももの裏側、ハムストリングスを伸ばす

登山の際、平坦な所はもとより斜面の登り降りをする時にもっともよく使うのが、大腿四頭筋の裏側にあるハムストリングスです。

ハムストリングスは使っていないと硬くなりがちです。硬くなると血流が悪くなったり猫背になったり、骨盤が後ろに傾いてどんどんと姿勢が悪くなります。普段の生活では、ハムストリングスをストレッチするような動きがないので、ここはしっかりと意識して伸ばしていく必要があります。

まっすぐに立ったら、片方の脚を後ろに引いて両手でもう片方の膝を抑えながらハムストリングスを伸ばします。この時、ふくらはぎが伸びていると感じるはずですが、それ以上にハムストリングスをしっかり伸ばしてください。左右の脚で10秒ずつ行うといいでしょう。他のストレッチも同じことが言えますが、朝起きた時、登山の前、できたら登山の後、入浴の後などと習慣にすると、それだけで身体がラクになってきます。これがハムストリングスのストレッチ、1段階目です。

次はハムストリングスのストレッチ2段階目で応用編です。直立させてから脚を前で交差させます。左脚を前にしたら、左手をつま先につけていきましょう。届かなければ、届くところまでで大丈夫です。さきほどのストレッチより、ハムストリングスに負荷がかかります。こちらも左右10秒ずつやってみましょう。

ハムストリングスが硬い人はかなり多いです。ハムストリングスが硬いと思っている方には特に1段階目、2段階目とをセットで行うことをおすすめします。1段階目で少しほぐれて、2段階目でさらに伸びることを感じられるはずです。

トレーニング3 座ってできる。膝の裏側をストレッチ!

ストレッチの最後に、デスクなどで座ったままでもできる膝裏のストレッチ方法を紹介します。まず片方の脚を伸ばして両手で膝を抑えます。つま先は天井のほうに向けてこのまま上半身を前に倒していきます。この時、膝の裏側、ハムストリングス、そしてふくらはぎの裏側にある腓腹筋が同時に伸びます。上半身を前に倒していくと、だんだんと脚の裏全体がしびれてくるような感じになりますが、イタ気持ちいいところで止めて10秒ほど伸ばし続けましょう(左右10回ずつが目安)。

特にデスクワークが多い方は、普通にしていても脚がむくんできます。1日に3回くらいを意識して行うとその後のトレーニングがスムーズに行えます。

トレーニング4 大腿四頭筋、ハムストリングスに効くランジ

不整地を歩くことが多い登山において、故障でもっとも多いのは脚を捻ることから生じる痛みです。筋力トレーニングでもっともやっていただきたいのは、大腿四頭筋と臀筋を鍛えることができるランジです。これを簡単にではなく、しっかりと正確にやっていただきたいと思います。

まず直立にまっすぐに立ち、片方の脚を前に出していきます。この時、膝、そして脚の向きが左右にぶれないようにまっすぐにしてください。特に膝は内側に入りやすいので注意しましょう。上半身をぐらつかせないようにするのもポイントです。次に前に出した膝の上にゆっくりと重心をかけていきます。3秒ほど静止したら、今後は脚を戻して逆の脚で行います。戻す時も身体をまっすぐにして体幹を意識しましょう(左右それぞれ10回行う)。

「たかがランジ、されどランジ」です。一見簡単なように見えて、これを正しく行うには体幹の強化も必要なんです。大腿四頭筋とハムストリングスが鍛えられることをはじめ、身体のバランス力もアップするので登山をする方には欠かせない筋力トレーニングになります。ご自分の筋力トレーニングのバロメーターとしてみるのもいいでしょう。

トレーニング5 つま先タッチで体幹とバランス力を鍛える

ランジに続いてもうひとつ、体幹を司る筋肉を鍛えてバランス力をアップするトレーニングを行います。

まっすぐに立ったら片方の脚を後ろに上げます(蹴り上げずそのまま上げてください)。そのまま上半身を前に倒して、両手をもう一方の脚のつま先につくようにします。この時、脚全体がぐらつかないように体幹を意識しましょう。体幹を意識して行うことで、だんだんとバランスを取ることがができるようになります。

地面に着いている方の脚はなるべく曲げないようにすることが理想ですが、そうすると手がつま先に届かない人も多いです。手はつま先に届くくらいには膝を曲げても大丈夫です。左右10回ずつやってみましょう。

このトレーニングでは、片脚でいかに体重を支えられるかという能力が試されます。この動作がスムーズにできるようになれば、登山時につまずいたり転倒することを回避することができます。私もトレランをしていますが、どんな傾斜の時でも脚を捻ることなく着地できるよう、このトレーニングを欠かさないようにしています。

※片脚にしっかりと体重を乗せて転倒に気をつけること!

トレーニング6 片脚スクワット

つま先タッチに続いて、さらに片脚スクワットをすることで安定感を高めることができます。片脚スクワットは、大腿四頭筋、ハムストリングス、そしてお尻の大殿筋を同時に鍛えることができます。

片脚スクワットのポイントは3つあります。1つ目は背中を丸めず背中をまっすぐにすることを意識すること。2つ目は膝を曲げて屈む時に身体をグラグラさせないことです。どうしてもグラグラしてしまうという人は、まずは片脚だけで立つ練習から始めてみましょう。身体をぶらさずに片脚立ちで30秒間キープしてみましょう。

膝やアキレス腱に違和感。
医師に相談するポイントは?

ー先生、実体験をもとにしたストレッチと筋力トレーニングの紹介をありがとうございました。登山を楽しむ人でも、日常的にここまで丁寧にやっている人はまだまだ少ないと思います。

平泉山を登るということは基本的に誰にでもできます。そのため、初心者向きの登山においては、準備体操や予防を十分に行わずに出掛ける人もいるでしょう。しかしながら、山というところは不整地の連続と言えます。膝やアキレス腱は少しの段差からの着地の失敗で痛めてしまいます。

ー自分のケアで間に合わず、お医者様にかかる場合どんなところに気をつければいいでしょうか。

平泉そうですね。提案させていただいたように、家でのストレッチや筋力トレーニングなどを、少しでも教えてくれる医師に診てもらうといいと思います。お薬や湿布で痛みは引くかもしれませんが、それでは根本的な問題は解決していません。

ーほかには何かありますか。

平泉痛みが出た場合に「このくらいなら大丈夫だ」と軽く見て、登山を続けることは避けましょう。痛みが出たらまずはアイシングで患部を冷やして安静にすること。様子を診ても痛みがひかなかったら病院に行ってください。

ー日頃からの予防を欠かさずに、診断の必要を見極めることが必要なんですね。

平泉膝やアキレス腱に痛みがあると、登山だけでなく日常の生活でも支障が出てきてしまいます。予防にストレッチや筋力トレーニング、それから食事や睡眠なども総合的には考える必要があります。また、サプリメントで不足している成分を補うこともいい方法だと思います。サプリメントは補助的に頼るようにすると効果も期待できます。私も走るためにサプリメントを利用をしています。

ー改めて身体のケアについて再確認することが多くありました。先生、ありがとうございました。

整形外科医・平泉先生が考えるサプリメントの摂り方

「私自身、年間を通してフルマラソンやトライアスロンのレースに数多く出場しているので、自分の身体とは常に向き合っています。レースにおいてはコースの難易度や環境が違いますが身体を酷使することに変わりはありません。私自身もそうですが、年齢を重ねるとともに身体は変化します。体力の低下、筋力の低下、思わぬ怪我や故障などの問題点も増えていきます。下記は日頃、私が注意している3つのポイントです。

・普段の食生活はバランスを考えて適量にする。
・トレーニングは過度になりすぎないように注意する。
・ストレッチや筋力トレーニングを欠かさず毎日ケアをする。

これらのことに気を配った上で、プロテインを含むサプリメントを積極的に利用しています。遠征に行く時には携帯に便利なものを選んでいます。サプリメントは自分でいろいろと試して自分の身体に合うものを見つけるといいと思います。また、サプリメントだけに頼らないことも大切です。

教えてくれた人:
平泉裕先生

昭和大学医学部整形外科学講座/スポーツ運動科学研究所客員教授。医療法人社団輝生会教育研修センター部長、日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リハビリテーション医学会専門医なども務める。自身もマラソン大会、トライアスロン大会に出走しトップアスリートの指導も行なう。

小川壮太さんが教える
膝痛予防に効く歩き方

1 決して猫背にならない

人間は普通に生活していると、年齢とともに背中の筋肉が衰えて「猫背」になりがちです。今は携帯電話が原因となり子どもから大人まで満遍なく猫背になってしまっている風景が日常です。背骨がゆがんでくると、肩コリ、腰痛、頭痛なども起こる可能性もあり、登山とは関係なくとも気をつけたい事態です。

そしてもちろん、登山時は猫背禁止! と言いたいくらい身体を上にまっすぐ、前にまっすぐしていただきたいです。ただでさえ不整地を歩くので、まっすぐな姿勢で身体を低重心にして安定させる。まずは、普段の生活でまっすぐ立ち、歩くことを身につけていきましょう。

2 常に骨盤の向きを意識する

歩く時に猫背にならないようにする次に意識してもらいたいのが、骨盤の向きです。登山をするみなさんは、山を登ったり下ったりする時、自分の骨盤がどのような向きにあるか意識していますでしょうか。

姿勢が悪いと骨盤は後ろに倒れて猫背になりやすくなります。正しく歩くには骨盤主導で前に進む必要があります。難しく考えることはありません。正しい基本姿勢を作るでもやったように、上に引っ張られるように身体をまっすぐにして顔を下に向かないように歩きます。首だけが前を出たり、お尻だけが突き出たりしないように。骨盤が正しい位置にあることを意識して、腰から脚が生えている感覚で、大股で歩いていきましょう。

3 お尻で歩く感覚を持つ

猫背を正し骨盤の位置を調整したら、最後はお尻で歩くというところに意識を向けましょう。歩くという動作において、もっとも疲れが溜まってしまうのは膝から下だけで歩いてしまうという方法です。膝から下だけで歩くと普段の歩行時はもとより、登山時には途中で登り下りができなくなるほど脚全体が疲れ、姿勢も悪くなってしまいます。

ゴリラが歩く姿を想像してみてください。ゴリラは大きな身体を動かすために、お尻から動いていきます。お尻から動く感覚を持つとそれこそ骨盤も立ちやすくなり、二軸歩行で前に進めます。右と左足の前に1本ずつラインが引いてあると思ってください。まっすぐな2本のラインの上を、右足、左足それぞれでお尻を使ってズンズンと歩いていくイメージです。この歩き方を習得しておくと、特に登山時では登りの時にラクに進んでいきます。大殿筋をはじめとするお尻の筋肉、ハムストリングスを効率よく使うことができます。

膝痛予防には、①猫背にならない、②骨盤を立てる、③お尻で前に進む。この3点をしっかり頭に入れて歩く練習をしてみてください。毎日少しずつやることで身につきやすくなり、登山がラクになり怪我や故障の予防に繋がるはずです。(小川壮太)

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