山でバテない身体を作る レベルアップ登山術

山でバテない身体を作る「6つ」のトレーニング

毎日続けたいレベルアップ登山のための習慣

「登山というのは、日常生活にない動きがたくさんあります。1日中、重いザックを背負い脚を動かし続ける姿勢は、筋力トレーニングやストレッチをしていないと、どんどんと猫背になり、腰は引け、股関節周りも硬くなり登山が辛いものになってしまいます。今回お伝えする6つのトレーニングの共通の目的は、頭からくるぶしまでを一直線にしたまっすぐな姿勢で登山をすることです。簡単にできますのでぜひ実践してみてください」(プロトレイルランナー・小川壮太)

目次

トレーニング1 正しい基本姿勢を作る

登山は姿勢を作るところからがトレーニングです。 正しい姿勢をできる限りキープすることで、身体への負担・疲労度が変わります。たかが姿勢、されど姿勢。もっとも大事なトレーニングです。

現代人は幼少の頃から携帯電話を見る環境にあり、社会人の多くはデスクワークで長時間PCに向かっています。これらの生活習慣に起因する姿勢の悪さは社会問題でもあり、登山者を見ていても猫背の人は大変多いです。

登山においてもっとも大切なのは姿勢です。「頭」から「くるぶし」までが一直線になるようにして、始終正しい姿勢で動き続けることが基本です。登山で疲れてきた時に姿勢が歪むのは仕方のないことですが、そんな時に意識して正しい姿勢に戻せるかどうかで、みなさんの登山の楽しさが変わってきます。腹筋・背筋の強化も正しい姿勢には不可欠です。日常生活の中でも、常に正しい姿勢を意識して歩くようにして、登山のレベルアップに繋げていきましょう。

正しい姿勢の確認方法

頭、肩、腰、くるぶしを一直線に結んで立ちます。全身鏡を見ながら行うといいでしょう。頭は前に突き出さず、肩の真上に置くイメージを持ちましょう。

トレーニング2 5分間踏み台昇降に挑戦

登山中、歩いている多くの時間は、大きな段差の連続ではなく、10~15cmの高さの登り降りの繰り返しです。そこで10~15cmの踏み台を用意して、自宅で登ったり降りたりを姿勢よく5分間続けましょう。

姿勢を正して歩く練習におすすめしたいのが踏み台昇降です。登山をする時に常に確認したいのは、①足元・足場の着地点 ②左右の風景 ③5m、10m先の着地点の状態です。

特に③の5m、10m先の着地点を『想像』することは大切です。「(まだハッキリ見えていないけれど)あの辺りの足場は岩だらけかもしれない」「ぬかるんでいるかもしれない」と想像しながら歩きます。『想像』する力が不足していると、車の運転と同じで急ブレーキをかけて転倒してしまいます。車の運転も左右後方を確認した上で、前方に「子どもが飛び出してこないか」「駐車している車のドアが突然開かないか」などと想像して徐行することがあります。その作業を怠りスピードを出していたら、いざという時に急ブレーキを踏むことになり事故につながります。登山もそれと同じです。

高さ10~15cmの踏み台昇降で登り降りする時、ただ登り降りするのではなく、前方の足場を想像して顔は前に向けて行いましょう。1度に5分間続けることで再現性も高まります。

トレーニング3 ザックを背負って踏み台昇降

トレーニング2が無理なく出来るようになったら、ザックの中に1.5Lのペットボトルを入れて踏み台昇降をやってみましょう。実際に荷物を背負って行うことで、登山での再現性をさらに高めます。

ザックを背負う時に注意したいのは、ザックの位置。ザックを背負ったらまずウエストのベルトを骨盤周りに浮かないように装着しましょう(※この位置は個々に適したところを見つけるといいでしょう)。この時にベルトがウエスト部分から浮いてしまうとザックの位置もグラグラしてしまい上半身への負担が多くなります。ウエストの位置が決まったら、ショルダーの長さを調整して背中との間が開き過ぎないようにしましょう。

ザックと身体が一体化するイメージで踏み台昇降を行います。荷物があるとトレーニング1で学んだ姿勢はさらに崩れやすくなります。アジア人の骨盤は欧米人に比べて後傾気味で、それが猫背の原因のひとつとも言われています。骨盤を立てるような意識を持って、なおかつ体幹を意識して練習していきましょう。

トレーニング4 トレッキングポールを正しく使うトレーニング

少し高めの踏み台を利用して、トレッキングポールの使い方の練習をしていきます。トレッキングポールでついやってしまいがちな「二の腕を使っての登山」は1時間ほどで腕が疲れて使えなくなります。

トレーニング1~3で登山の姿勢をだいたい掴んだら、今度はトレッキングポール(以下ポール)を持って歩く練習をしていきます。ポールを使う目的は、疲労により崩れてきた身体の「軸」と「バランス」を立て直すことにあります。立て直すといってもポールを使って身体を支えたり、ポールを使って腕で登山をするのではありません。疲れた身体をポールに寄りかからせたり、腕を高く上げてポールをガシガシ使っている人を見かけることがありますが、このような姿勢では1時間くらいで身体に疲労が出て二の腕も上がらなくなります。

NG例

『ポールは身体のバランスを整えるだけ=あくまでもサポート役』、という認識を持つといいでしょう。登山中、自分が持っている左右のポールが同時に視野に入ってきたら、手元と上半身が近くなり過ぎて姿勢が崩れている証拠です。ポールを持って踏み台を歩くことで、正しいポールの使い方を覚えるといいでしょう。慣れないうちはポールと足が同方向に出てしまったり、ポールに体重をかけたりすると思いますが、練習するうちに慣れて三点支持で上手に登り降りできるようになります。

トレーニング5 股関節周りは柔らか~く

股関節周りの筋肉が硬くなっていると、猫背になりやすいです。1回30秒ずつ、左右の脚をグルグル動かす体操と腸腰筋を伸ばすストレッチで、股関節周りの筋肉を柔らかくしておきましょう。

上半身と下半身を繋いでいる股関節周りの筋肉(大臀筋、腸腰筋、大腿直筋)が硬くなると、脚がスムーズに動かなくなり姿勢も崩れ登山に悪影響が出てしまいます。登山による疲労が出なくても、股関節が硬いだけで骨盤は後傾しやすくなり、全身のあらゆる部位に負担がかかります。股関節は加齢によっても硬くなりやすいので、できれば毎日少しずつでもケアしたい部分。

今回紹介する股関節周りの筋肉を柔らかくする方法は2つあります。

1つ目はまっすぐに立って、片方の足を上げて自転車を漕ぐように足を前から後ろに回す方法です。下腹部に力を入れて身体がぶれないようにして(最初はどうしてもぶれてしまうと思いますが慣れます)、立っているほうの脚もグラつかないようにしましょう。左右それぞれで20回を目安にやってみてください。

2つ目の方法は、片方の脚を後ろに引き、もう一方の脚を地面から浮いた場所(台や階段)に乗せ、膝を押さえながら股関節の深部まで伸ばす方法です。この時、押さえている膝が前方向に出過ぎないように、背中も丸まらないようにして左右10回ずつ行いましょう。股関節の深部が伸びて気持ちいいところまできたら、その姿勢を10秒間キープします。呼吸を止めないようにしながら行いましょう。

トレーニング6 膝に負荷をかけずにお尻で登る

登山者の大きな悩みである膝痛。膝への負担を最大限に減らすには、膝に力を入れるのではなく、股関節を引き込む動作が必要。膝は常に正面を向くようにして、身体がブレないようにして行います。

トレーニングの最後は、膝のケアです。登山の時に膝を痛めないもっとも効率的な方法は『お尻で登山』をすること。お尻を使う歩き方を覚える練習として、ここでも踏み台昇降を利用します。全身のバランスを取りやすくするために両手には500mlのペットボトル(水入り)を持ち、片方の脚で踏み台に上がり、空に向かって伸び上がり踏み台から降ります。この動きを繰り返しますが、この動作の繰り返しを脚だけで行うと膝に負担が集中してしまいます。ここでお尻を使うことで、膝への負担が減り歩きやすくなります。

お尻を使うイメージは、ゴリラの歩き方を思い浮かべると掴みやすいかもしれません。お尻は大臀筋、中臀筋、小臀筋、梨状筋など複数の筋肉で構成されていて、人間の筋肉群の中でもっとも大きい部位になります。ゴリラのように大きなお尻が動いている姿をイメージしてトレーニングをしたり登山をすると、お尻からの動作ができるようになります。

膝という小さい部位には常に負担をかけないようにする意識を持つといいでしょう。膝を守るためのケア、トレーニング、また膝のためのサプリメントを使ったり、痛みが生じたらすぐに医師に診てもらうこともおすすめします。お尻は大きくて丈夫な筋肉ですが、膝は小さくて壊れやすいということを、頭の隅に置いて練習していきましょう。

回答:小川壮太(プロトレイルランナー)
取材・文:市村まや
カメラ:小野口健太
協力:日本新薬株式会社

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