山でバテない身体を作る レベルアップ登山術

登山をレベルアップさせる8つのアドバイス

身体のメンテナンスから山の食事、サプリメントまで

レベルにあった山の選び方、日常生活でできる体力作り、山歩きの基本となる姿勢、怪我や故障対策、食事やサプリメントの摂り方など、プロトレイルランナーの小川壮太さんが山でバテない身体作りを徹底伝授してくれます。インタビュアー兼体験モデルは週1ペースで登山を楽しんでいる千野美樹さん。目から鱗のノウハウが満載です。

目次

Q1 レベルアップ登山に必要な「体力」とは?

A 荷物を背負って近所を歩いて、自分の体力を知るところから始めましょう

まずは登りたいと思っている山に行くシミュレーションをして、荷物を作ってみます。その荷物の入ったザックを背負って、近所を1~2時間歩いてみましょう。歩いている間、身体への負担はどのくらいか、喉の渇きはどのくらいか、汗の量など自分自身を客観的に調査してみましょう。また、この時、最悪の気象状況になった時のことも考えてみましょう。大雨になり風が吹いてきました。ザックの中に防寒具は入っているでしょうか。はいている靴の防水は安心できるでしょうか…。登山時を想定して歩いてみることが大切です。

もしこの1~2時間で息が切れたり、疲れ切ってしまうようでは体力不足。レジャーと登山は違うということを認識して、毎日のように体力をつけていくことがレベルアップにつながります。ザックを背負うのが負担になるようであれば、最初は手ぶらで1~2時間を継続して歩くところから始めてみましょう。

Q2 レベルアップするための「山選び」のコツは?

A 自分の経験値から選ぶことを忘れないようにしましょう

「あの山に登りたい…」と難易度の高い山に憧れを持つことは、登山の魅力のひとつです。しかし自分の登山レベルを大きく超えた山に行くことだけは避けましょう。山の難易度(グレーディング)の情報を得て把握した上で、いつか登りたい山を決める作業が必要です。目標に向かって段階を踏んで行くわけですが、外部の情報に振り回されることなく、ご自身の登山の『経験値』から次のステップに進むようにしましょう。経験値を軸にしながら山を選んでいくと、自分の中で確実な自信が積み上がります。人に合わせてレベルの違う山に行くと自分の実力を見失い、過信する危険性もあります。

3時間程度の散歩が無理なくできたら里山へ。半日以上の山行に成功したら次は標高2,000m以上の本格登山に挑戦する。あたりまえのことのようで、このステップを踏まないで暴走する人も案外多いです(それだけ山には魅力が詰まっています)。ステップを正しく踏むと、装備についても不可欠なものがおのずと分かるようになります。

Q3 登山前の準備で気をつけておきたいことは?

A 夏山の失敗アルアルは、とても危険です

登山において天気を想定することは不可欠ですが、ここを見誤る人が多いのも事実です。特に夏山の「防寒」には注意が必要です。山の天気は上昇気流が発生しやすく変わりやすいです。上昇気流が起きて、空気中にたくさんの水蒸気が含まると大きな雲が発生して雨が強く降ります。登り始めが快晴で、終日晴れという天気予報だったとしても登るにつれて雲行きが怪しくなることが考えられます。

例えば梅雨時の1,000m超えの山では気温が10℃以下になることもあり、ダウンウェアなどの防寒具が不足していると低体温症になる恐れもあります。低体温症になると身体の深部体温が35℃未満になり、身体は震え、意識が朦朧としてきます。そんな状態で登山は続けられません。また無事だったとしても雨宿りをしていて夜になり、ヘッドライトが無いため下山できないということもあります。登山の準備に「まあいいや」は禁物です。安全を一番に考えて揃えておきましょう。

Q4 登山の日、朝食、昼食のオススメ食事法は?

A 食事+サプリメント(ジェル)で万全の対策をとっています

登山時の食事はおにぎりやパン類などの炭水化物が多いです。これらは大休止の時にしっかりと食べますが、私はここにサプリメントを組み合わせて、登山中の集中力を切らさないようにしています。私の場合ですが、登山時の昼食におにぎりやパン類などの炭水化物を摂ると、猛烈な睡魔が襲ってきたり、めまいを起こすことがあります。登り始めてから昼食時までの疲労度にもよりますが、血糖値の上昇が急すぎることが考えられます。そのため疲れを感じたり空腹を感じる前にジェルタイプのサプリメントを出して、登りながらススっと摂取します。

ジェルタイプのサプリメントは甘味がありますので、私はこの味を楽しめるようにドリンクは緑茶、麦茶などのお茶類を常備しています。ジェルを持っていない時はスポーツドリンクを用意していましたが、スポーツドリンクにも甘味があるので併用はせず、ドリンクとジェルの両方を美味しく摂取できるように工夫しています。

Q5 怪我・故障予防で気をつけていることは?

A 水、消毒液、ダクトテープを常備しています

登山時の怪我対策に、まず欠かせないのは飲料以外に使う水です。自分用には最低500mlの水を用意します。よくスポーツドリンクしか山に持っていかない人がいますが、登山で転倒して出血した時に水は欠かせません。怪我で出血した部分は水で洗い消毒する必要があります。

そしてもうひとつ欠かせないのが、ダクトテープです。ダクトテープは米国で軍需製品として開発されたガムテープよりも強力なテープで、手で簡単に切れる優れものです。止水効果も高く、壊れたギアの補修にも役立ちます。怪我をした部分を洗ってガーゼを当てたら、その上からダクトテープを巻いて圧迫し、応急処置とします。登山では開放骨折など出血を伴う大怪我をすることもあり、その場合はトレッキングポールを添木にして、水に強いダクトテープでしっかり固定・止血してヘリを待ったりします。ここまで重症な事態になることを常に想定する必要はありませんが、何が起こるか分からないという危機感を持つことは大切です。水、消毒剤、ダクトテープは揃えておくといいでしょう。

Q6 登山前日に行いたい身体のメンテナンスは?

A 足首とひざ、背中のメンテナンスが大切です

登山の前日、お風呂に浸かりながら足首をグルグル回して可動域を広げましょう。右に30回、左に30回を左右の足で行いましょう。足首を柔らかくして可動域を広げておくと着地時の捻挫を防止することができます(この足首グルグル運動は、登山直前や登山の間にもマメに行うとさらなる怪我予防になります)。次に前日の入浴後、直立姿勢から少し屈んでひざを右に20回、左に20回ゆっくり回しましょう。ひざは小さい部位にも関わらず登山ではもっとも負担のかかりやすい部位になります。少しでも柔らかくして負担の軽減に繋げましょう。

そして猫背改善のひとつとして、背中と首を伸ばしておきましょう。ストレッチポールに乗り(なければ床に寝たまま)、両手を頭の上のほうにひっぱり上げて背中を伸ばします。肩甲骨を意識して、胸部を広げるようにしてゆっくりと深い呼吸を繰り返しましょう。息を吸って吐いてを20回行うといいでしょう。

Q7 登山前日に行いたい身体のメンテナンスは?

A 登る山の時間や距離を、1週間かけて動いてみましょう

私は100kmくらいの山岳レースに出ることが多く、トレーニングのひとつとして、「1週間でレースと同じ距離を動く」というメニューを取り入れています。1週間で100kmを走るのではなく合計して100km分、身体を移動させます(自転車も含む)。みなさんも週末に5時間の山に登る予定だとしたら、1週間で合計5時間、身体を動かすことを意識してみてください。通勤で歩くだけでその時間に達しない場合は、1つ前の駅で降りて歩いてみたり、自転車で買い物に行ってみる。いつもはエレベーターのところを歩いてみるといった具合にチマチマと動く時間を積み重ねるといいでしょう。

これらが習慣になれば体重のコントロールもしやすくなります。体重がありすぎるのはレベルアップには不利です。かといって脂肪は登山のための大切なパワーでもあるので痩せすぎないようにして、例えば脂肪を有効に使えるサプリメントなどを使うのも有効です。体重のコントロールもトレーニングのひとつとなります。

Q8 レベルアップ登山にサプリメントが必要な理由は?

A 登山に気軽なサプリメントは必需品です

私は登山のためのトレーニング時にプロテインを使います。好きなプロテインをシェイカーで作ったり、コンビニに売っているプロテインを利用して、トレーニング直後に摂って回復を図るのが目的です(負荷の強いトレーニングの日や、筋繊維へのダメージが大きい日は就寝前にも摂取)。プロテインは毎日ではなく、食事で得る栄養が不足している部分を補うという感覚で使っています。山にいる時間が長くなればなるほど糖質のエネルギー回路だけでは体力が持たず、脂質からのエネルギーが必要になります。プロテインを摂ることで、翌日も質の高いトレーニングをすることができます。

また、登山の時には必ずジェルタイプのサプリメントを持っていき、シャリバテなどにならないようにマメに摂取します。ハードな大会時にはジェルを50個持っていくこともあり、血糖値をコントロールしながら完走をめざします。気軽に摂取できるサプリメントを自分の体調に合わせて上手に使うとことをおすすめします。

回答:小川壮太(プロトレイルランナー)
取材・文:市村まや
カメラ:小野口健太
協力:日本新薬株式会社

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