東エリア 推奨コース

石割山~大平山
開運の磐座と、山上の“絶景テラス”を目指して

東エリア

富士山の東西南北に選定された「富嶽三十六景ハイキング」の富士見スポットを目指して、眺める喜びを追い求めるトレイルを歩く――。バッジを獲得できる二座を踏む魅惑の“周回コース”を、低山トラベラー大内征が案内する特別企画。

第一回目は、富嶽の東エリア。
開運の磐座が山中に鎮座する石割山から、富士山に向かって伸びる開放感バツグンの尾根道を伝い、三十六景の中でも指折りの“絶景テラス”を大平山に目指します。

コース(富士急バスの停留所を起点に周回するコース)

平野バス停→石割山登山口→石割神社→石割山(1412m)→平尾山(1318m)→大平山(1296m)→長池親水公園→平野バス停
※平野バス停へのアクセス
富士急行線河口湖駅・富士山駅より富士急バス(山中湖旭日丘で乗換あり)/ バスタ新宿(新宿駅新南口)より高速バス

ハイカー泣かせの403段。石割神社の参道からスタート

新緑が芽吹きはじめるころの石割山は、カラフルなウェアに身を包んだハイカーで賑わう。麓の駐車場から溢れた車が沿道に隙間なく並ぶのも、もはや恒例の風景となった。

この日は数日ぶりに訪れた雨上がりのすっきりした青空で、どうやら山不足に欲求不満をため込んでいたハイカーたちの背中を後押ししたらしい。ひっきりなしに押し寄せては駐車できずに右往左往する車を横目に、平野のバス停から歩いてきたハイカーたちが続々と登山口の朱の鳥居をくぐっていく。今日の山中は、ずいぶん賑やかになりそうだ。

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石割山といえば、鳥居の奥に天を衝くように伸びる403段の階段を思い浮かべる人が多いだろう。これがとても急な設えで、のっけから心が折れてしまいそうになるよねと、みなが口をそろえるほど。しかし、ここでへこたれている場合ではない。反りあがった階段を乗り越えた先には、この山でしか味わうことのできない“開運の巨岩”と“山上の絶景テラス”が待っているのだ。これを励みに、ぼくらもさっそく階段を登り上げる。

この道は、石割山の頂へと続く“山道”であるとともに、石割神社へと通ずる“参道”でもある。道はよく整備され、清浄で、わかりやすく、だから迷うことはない。時おり尾根道から見える秀麗な富士山の姿に気分を高めていきながら、まず八合目を目指す。ここに、開運の巨岩を御神体とした石割神社が鎮座している。

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石割神社では、思わず歓声をあげるほどの巨岩に圧倒される。極太な注連縄をかけられた神の依り代たる磐座は、山中にあって特異な存在感を放ち、訪れる者の心を強く打つ。岩には大きな割れ目があって、それが「石」と読めることが名の由来だという。

社の裏手に回り込むと、大きな隙間をくぐり抜けることができるようになっており、時計回りに3回通ることで運が拓けると伝わる。いわば「胎内くぐり」の修行である。この日も多くのハイカーが思い思いに手を合わせ、そして巨岩の隙間に吸い込まれていた。

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この石割神社の祭神は天手力男命(あめのたぢからおのみこと)である。天照大神が弟・素戔嗚尊の乱暴な振る舞いに嫌気をさし岩に身を隠してしまったという“天岩戸”は、実に日本各地に数多く伝わる。関東なら、ここ石割神社の磐座がそれとよく知られている。

天岩戸の物語は、太陽の神である天照大神が岩戸に姿を隠したことによって世界が真っ暗闇となり、困った神々が知恵を出し合って解決に挑むというストーリーだ。その時に活躍した神の一柱こそ天手力男命。岩戸を投げ飛ばし天照大神をひょいと連れ戻したという怪力の功績によって、現代では「スポーツ」や「勝負ごと」の御利益があると崇められる神さまである。

天手力男命は、天照大神が二度と隠れることができないようにと岩戸を遠く信州へと投げ飛ばして、それを山中に隠した。その地を「戸隠」という。だから、戸隠神社の奥宮にも、石割神社と同じ天手力男命が祀られているというわけだ。

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石割山の山頂はとても展望がよく広々としているため、レジャーシートを広げてランチを楽しむハイカーたちで大いに賑わう。眼前には山中湖とともに、大きく裾野を広げる富士山が素晴らしい。空気が澄んでいれば南アルプスや甲州アルプスの一部もよく見える絶景の地でもある。

しかし、富士山との間に横たわっている平尾山と大平山には、さらなる絶佳が待っていることを覚えておきたい。多くのハイカーが石割山で引き返してしまう中、さらに歩を西へと進めれば、行き着く先に広がる大平山の山上テラスで“今日イチ”大きな富士山に出合うことができるのだ。

歩いて楽しい多彩な表情。絶景の富士見尾根が待っている

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石割山を後にすると、平尾山からさらに大平山へと結ぶ道がとてもよい。さまざまな表情でハイカーを楽しませてくれる上に、緑の木々の間にはまだ真っ白な雪を残した富嶽が聳えている。固定されたロープを頼りに下る急な砂地の道はまるでジェットコースター気分で、木々のアーチは季節変わりに花々のトンネルともなり、抜けのよい尾根道には爽やかな風が通る。歩いているだけで心が躍る魅惑的なトレイルだ。

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中でもぼくのお気に入りは、大平山の山頂直前にある「階段」だったりする。ここを一歩一歩登りながら視線を徐々に上げてみよう。すると、大平山の頂の直前から富士山の頂が少しずつ姿を見せてくれて、気分がアガること間違いなし。これまでずっと一緒だった富士山が、ここにきて一気に大きくなったように感じるのは、大平山が石割山よりさらに富士山に近いことを意味している。これほどの至近距離で富嶽の姿を眺めることができるというのが、この山まで足を延ばしたハイカーに与えられる最大の特権なのだ。

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大平山の山頂は、石割山よりもさらに広々とした天然の「山上テラス」になっている。遮るものはなにもなく、眼下には山中湖が足元まで大きい。ふと後ろを振り返ると、石割山から平尾山、そしてここ大平山へとつながるひと筋の道を確認することができる。こうして眺めてみると、ずっと歩いてきたんだなぁと感慨もひとしおだ。

このあとは山中湖畔まで下山するだけ。昼下がりの優しい陽射しと、ハイカーが極端に少ない開放感をいいことに、広々とした山上のテラスをほぼ独占するようにして、ぼくらはのんびり過ごすことにした。ベンチに腰掛けてぼーっとするとか、なんとも贅沢な時間。

クライマックスは、湖畔の道から望む夕暮れの富嶽

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やがて落日が近くなり、長池親水公園まで下山することおよそ1時間。湖畔に出ると日暮れの淡い空が凪いだ水面を青く照らし出している。長池親水公園から平野のバス停まで、山中湖越しに富士山を眺めながらてくてくと歩く、絶景の仕上げ道。夕暮れ時の湖畔の歩道はことのほか気持ちがいいので、心からオススメしたい。

上空から見るとクジラのような形をした山中湖の、まさにクジラの“尾ひれ”のあたりまで来たとき、暮れなずむ湖面に映し出される富士山が“逆さ”になって出迎えてくれていた。思わず――本当に思わず、日がな一日その姿を隠すことなく付き添ってくれた富嶽に感謝の気持ちで手を合わせている自分がいた。陽が落ちてなお浮き立つ逆さ富士の姿は、富士見の山旅を締めくくるに相応しい、いまここにいるぼくらだけにしか見ることのできない特別な光景である。

しばし見惚れてしまった。そろそろ夜の帳が下りようとしている。ゴールの平野のバス停は、すぐそこだ。

著者プロフィール

大内征(おおうち・せい) 低山トラベラー/山旅文筆家

土地の歴史や物語を辿って各地の低山を歩き、自然の営み・人の営みに触れながら日本のローカルの面白さを探究。その魅力とともに、ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の楽しみについて、文筆と写真と小話とで伝えている。

NHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」レギュラー出演中。著書に『低山トラベル』、『とっておき!低山トラベル』(ともに二見書房)、新刊に『低山手帖』(日東書院本社)など。NPO法人日本トレッキング協会理事。

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