山岳ガイド・クライマー
石井スポーツ登山学校校長、登山本店所属の山岳ガイド・クライマー。ローツェ(8,516m)日本人無酸素初登頂のほか、8,000m峰6座に登頂。2008年にはインドヒマラヤ、カランカ(6,932m)北壁をアルパインスタイルで初登攀し、フランスの山岳賞、ピオレドール賞を日本人として初受賞。
CW-X開発者
株式会社ワコール ウエルネス事業部 事業企画課長2004年ワコール入社 人間科学研究所 配属。入社以来人の動作(筋・骨格)に影響を及ぼすスポーツ商材の研究・開発に従事。2011年ウエルネス事業部 商品部 商品企画課に異動し、2016年より現職。現在はCW-Xの事業戦略、プロモーション戦略の企画に従事している。
山岳ガイドであり、石井スポーツ登山学校の校長も務めている天野和明さん。CW-Xのスポーツタイツ「愛用歴18年」のヘビーユーザーです。彼は「はいているとパフォーマンスが上がる気がする」と感覚的にスポーツタイツの効果を感じていますが、「どんな仕組みで機能しているの?」と、ギモンに感じている方も多いはず。
そこで、CW-Xのスポーツタイツの開発に15年以上携わっているワコールの清家望さんをお迎えし、なぜCW-Xのスポーツタイツをはくと脚が楽になるのか、そのヒミツを紐解くとともに、選び方や買い替えのタイミングについても教えていただきました。
天野さんはCW-Xのスポーツタイツ愛用歴18年とのことですが、はきはじめたきっかけはなんですか?
天野
僕がはじめてヒマラヤ遠征に出かけた2001年に遡りますが、当時、石井スポーツの店頭で一緒に働いていた竹内洋岳さん※が勧めてくれたのがきっかけです。
その頃はまだCW-Xがメジャーではなくて、男の人がタイツをはくというスタイルが馴染みのない時代だったんですけど、竹内さんが「これいいよ」って勧めてくれて。僕ははじめてのヒマラヤ遠征で分からないことがたくさんあって、自分を助けてくれるものは何でも使いたい、試してみたいと思っていて。CW-Xのスポーツタイツをはいてみたらひざが安定して、脚上げが楽になった気がしたんです。それがきっかけで今も愛用しています。
※日本人で初めてヒマラヤ8,000m峰14座完全登頂に成功した登山家。天野さんと同じ石井スポーツに所属
天野さんが感じた「脚上げがしやすい」という感覚は、スポーツタイツの機能と一致しているんでしょうか?
清家
はい。「脚が上げやすい」という声を多くいただいていますが、それはサポートタイツが股関節をしっかりサポートしているからです。
ではなぜ股関節をサポートすると脚が上げやすくなるのか、それは、脚が股関節から動いているからです。
たとえば歩くときに、足首を固定して動いてみてください。するとどうですか?動けますよね。今度は、ひざを固定して動いてください。これも動けますよね。では最後に、股関節を固定して動いてみてください。
・・・・う、動けない。
清家
清家:そう、動けないんです。人が歩くときは股関節から動いているということが分かりますよね。
天野
なるほど。キーポイントになっているのは股関節ですか。
清家
CW-Xのスポーツタイツは、サポートラインを股関節からふくらはぎまで連動させています。こうすることによって、カラダの重心が安定し、ひざも安定するようになります。だから、「スポーツタイツをはいたらひざが楽になった」、「脚を上げやすい」と感じるようになるんです。スポーツタイツをはいて股関節から脚の動きを整えることで、ひざを守ることにも繋がっていきます。
股関節やひざをサポートする仕組みについて、詳しく教えていただけますか?
清家
多くの方がひざの痛みで悩んでいると思いますが、ひざを痛める原因は、ひざが左右へぐらついてしまうことにあります。そのぐらつきを抑えるため、CW-Xのスポーツタイツは、伸びにくい素材で股関節からふくらはぎまでを切れ目なくサポートしています。要するに、この素材がテーピングとしての役割と、歩く動作の軸となる股関節に圧をかけ安定させる役割を果たしている、というわけです。特に、股関節へ圧を加えることは筒状の衣類だからこそできることで、CW-Xの大きな特徴です。
天野
僕はCW-Xを店頭で販売しています。 エキスパートモデルはひざサポートで、スタビライクスモデルが腰サポートのイメージを持っていますが、どちらも共通して股関節を大事にしているんですね。
清家
はい。どのモデルも一番大切にしているのが股関節で、そこから腰、ひざなどを強化しています。
登山でよく利用されるモデルは4種類ありますよね。
清家
サポート範囲の多い順に、腰から脚までフルガードする ジェネレーターモデル、縫い目をなくして肌あたりをよくした ジェネレーターモデル(レボリューション)、ひざと腰に特化したスタビライクスモデル、ひざを強化した エキスパートモデル、というモデルを展開をしています。
天野さんはどのモデル派ですか?
天野
2001年に出会ってしばらくは「エキスパート」をはいていましたが、いつしかスタビライクスをはくようになり、今はこれが一番好みです。僕はフィットするウェアに抵抗がないので、レボリューションモデルだと少し物足りなかったんですよね。人それぞれ合う合わないがあるから、選ぶのが難しい。お客さんにも、よく「どれがいいの?」と聞かれていました。
清家
「登山に一番おすすめのモデルはどれですか?」と聞かれると一番困ってしまうんですが、天野さんのおっしゃるように、人それぞれ好みや感じ方が違うので、まずはご自身のニーズに合ったモデルを知ることが大切です。
動きという点に軸を置くと、一番対応力があるのは ジェネレーターモデルです。股関節、腰、ふともも、ひざに加えておしりの筋肉もサポートしているので、山で急な斜面が出てきたときや滑ってしまったときなど、思わぬ方向に急に止まるような動きから身体を守ります。
スタビライクスモデルは、腰からお腹にかけてぐるっとサポートラインを設けて腹圧を高めるようなサポートを加えることで、カラダの連動性を高めています。
天野
なるほど。だからスタビライクスモデルをはいていると背筋が伸びる感じがするんですね。
清家
木に引っ掛けて穴をあけてしまった経験のある人には、耐久性の強いエキスパートモデル(2.0)がおすすめ。今までのエキスパートモデルはポリエステルでしたが、2018年の秋にコーデュラナイロンにアップデートして素材の強度が上がり、肌あたりも柔らかくなっています。長時間はいて肌当たりや縫い目が気になる方は、エキスパートモデル(2.0)」か「レボリューションモデル」。それぞれ個性があるので、自分のフィーリングに合うモデルを選んでもらえたらと思います。
天野さんは8,000m峰の高所登山をされていますが、そういったシーンでもは履きますか?
天野
はいていますね。高所では締め付けすぎると血行が悪くなるので、スポーツタイツに抵抗を持つ人が多いけど、僕は窮屈には感じなかったです。むしろ、マイナスよりも得られるもののほうが多かったのではいていました。
そもそもCW-Xはどんな目的で作られたのでしょうか?
清家
ブランド名の「CW-X」は、コンディショニングウェアの略なんですが、コンディションを整え、いつまでもスポーツを楽しんでほしいという願いを込めてスポーツウェアを作っています。
天野
CW-Xの“X”にはどんな意味が?
清家
“X”は、インフィニティマークと呼んでいて、無限のマーク「∞」に近づけています。インフィニティマークは、無限の可能性、そして無限に向かう行程の素晴らしさを表現しているシンボルマークです。
少し前にマリナーズを現役引退されたイチローさんも、CW-Xを愛用しているそうですね。
清家
イチローさんはNPBのオリックスブルーウェーブにいらっしゃったときから、自分のパフォーマンスを支えるためにタイツを色々試していたそうです。そのときにトレーナーの方からCW-Xを勧められ、はいたときに気に入っていただけたようで、イチローさんからご連絡をいただきました。
野球というと、グローブやバットが注目されがちですが、引退されるまで、試合のときも練習のときもトレーニングのときもイチローさんの一番身近にあったのは、実はCW-Xでした。それは私たちの誇りです。
天野
長い間、第一線で活躍されたイチローさんだからこそ、カラダの動きに関してこだわりがあるのでしょうね。
清家
イチローさんが動きで一番大事にしていたのが肩甲骨と骨盤・股関節なんですよね。CW-Xのタイツをはいたときに骨盤周りのフィーリングが合ったそうで、「これ気持ちいいね」と言ってくださっていました。
これは一般の方にも同じことが言えるのですが、スポーツタイツをはいたときに自分の股関節辺りが「なんだか動きやすそうだな」と感じられるかどうか。スポーツタイツをはく上で、そこが大事だと感じています。
サイズ選びを間違えて「これきついな」とか「フィット感を感じない」ということもありがちだと思うのですが、気を付ける点はありますか?
清家
そうですね。自分に合ったモデル、サイズを選んでいただいてこそ、最大のサポート機能を発揮します。そのため、知識のある店員さんにアドバイスをしていただいて、まずは試着することが大切です。自分の体型にあったサイズを選んでいただければ、“なんかよさそう”と感じていただける自信があります。
天野
はき続けていると、段々ゆるくなってくるじゃないですか。これはどうしたらいいですか?
清家
適正サイズをはいているのにゆるいと感じるのは、買い替え時のサインのひとつです。CW-Xの機能を支えているのは、基本的にはスパンデックスというポリウレタン素材の伸縮性。いわゆるゴムなので、何回伸ばされるかで耐久性が左右されます。毎日はかれている方であれば、その分ゆるくなったり、ズレやすくなったりします。
実際、YAMAPユーザーからも「買い替えるタイミングが分からない」という声が多くありました。
清家
新品をはいて比較すると、「自分のタイツがだいぶゆるくなっているな」というのが分かりやすいのですが、なかなかはき比べる機会ってないですよね。見極めのポイントとしては、「シワが寄りやすくなったか」、「タイツの表面が白っぽくなっているか」です。
タイツを着用するとき、ひざにサポートラインを合わせているのにシワが寄っていたら、伸縮性が落ちてきている状態です。また、タイツが白っぽく見えてくる状態も、ゴムの劣化がはじまっているサインです。
たとえば年に数回しかはいていなくても、太陽光を浴びていたら劣化は進みますか?
清家
はい。ワコールでは品質面をクリアしている素材を使ってはいますが、やはり日光はゴムを劣化させる要因なので、室内よりは劣化が早くなります。
天野
日光でいえば、黒色は熱を吸収するから、他の色より暑く感じることがありますよね。でも白色のタイツは、はくのに抵抗がある(笑)
清家
そういった声もあるので、最近はグレー色でメッシュ構造のクールタイプを開発しました。熱がこもりやすい部分をメッシュ構造にしているので、通常タイプより涼しい設計です。
天野
夏場は暑いから、タイツをはかない人も多いですもんね。
清家
このクールタイプが女性を中心にかなりヒットしました。女性の場合は日焼けも気になるので、それも相まって反応が良かったのかなと感じています。
山歩きとスポーツタイツの“いい関係”
天野
歩くことって、日常生活では当たり前の行為なので、特別ではないと感じている人が多いと思います。でも、山の場合は、地面が不整地だったり、ときに滑りやすかったりもする。雪があれば重い靴をはいて、アイゼンをつけることもあります。もしかしたら、次の一歩で転んでしまうかもしれない。一言で歩くといっても、簡単なようで実は技術が必要で、人それぞれ得意不得意があると思っています。
登山では一日に何千、何万歩と歩くことがあるので、少しでもロスなく、疲れずに歩いた方が、安全で楽しい登山になる。そう考えると、カラダをサポートしてくれるスポーツタイツは、山ではとても大きな存在だなと感じています。
清家
スポーツは競技性という側面だけではなく、日常生活の疲れを癒すリフレッシュの一面もあると思っています。でも、なかにはケガやカラダの痛みによって、泣く泣くスポーツをあきらめる方もいらっしゃいます。私たちはCW-Xを通して、多くの人にいつまでも安全にスポーツを楽しんでいただけるよう、開発はもちろんですが、スポーツタイツの重要性をもっともっと伝えていきたいと思っています。